卒業制作と情報デザインと2011

研究室の学生9名が卒業制作を提出した。いずれも現在のデザイン研究・制作の評価水準に乗る出来映えだと手応えを感じている。
この学年に対して2年次から授業内容を変更し、ビジュアルデザインという所属コースの中に情報デザインの視点を導入したプログラムを数多く行ってきた成果だと思われる。主な試みは次だ。
文献リサーチ、フィールドワークの重視。
KJ法などの発想と企画。
ゴールダイレクトのシナリオ手法。
グループワークやファシリテーションの導入。
企業や行政、市民団体との産学官協同運営。
そしてグラフィック制作物に限定しない、体験デザインの視点。

いずれも「モノ」を作るデザイナーから、「コト」を生み出すクリエイティブシンカーの育成になればと信じて、手探りで授業を組み立ててきた。
メーカーの宣伝部とデザインプロダクションの経験の中で常に覚えていた違和感がある。デザイナーは「生き方を啓蒙する視点」を持っていたいという思いだ。商品やサービスを生み出す過程で作り手がしっかり想像する最終地点は、手に取った形や色ではなく、使い手の興奮や誇り、知識欲や向上心のような目に見えない体験のはずだと、ユーザーの立場で感じてきた。
メルセデスのライトのスイッチをカチリと回す時に指先に感じる「灯りを点して安全を確保しよう」という軽い自信のような意思が、なぜ国産T社で動作する時に感じないのだろう?と思うのは私だけではないのではないか。デザイン、ブランディング、マネジメントに関わる人は、作り手の技術は使い手の気持ちを導くための手段と、明確に定義してよいのではないかと思う。
2008年からの情報デザイン、HCD、UXDの研究と教育の高まりが明快な視座を与えてくれ、自分の授業の自信に繋がったように思う。

授業を変更して4年間。学内では成果の兆しが見られたが、外部からは何も分からないし、社会への還元も不十分だ。いよいよ学生と地域の共同研究の形で情報デザイン、UXDの視点でのビジュアルデザインを強く推進させる段階だと、2012年を迎えてそう思う。

copyright Nobuo Yasutake