XZ400

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23歳のある夜に寮で目を覚ました瞬間に、XZに乗ろう、と決めた。マンガのような展開だが、その週末にはヤマハのショップに相談に行き、グレイの色も指定した。XZはGKの強い思い入れで生まれたとしか言いようがない造形で、側面から見ると45度のVツインのバンクを下の頂点にした斜めのラインが反復交錯する、未来建築のような冷たい合理性が魅力だった。一方、弁当箱と呼ばれたメーターナセルや文字盤のフォントの味気なさや、エイのように無表情なガソリンタンクの上面は、三次元としての彫刻美を獲得したとは言いがたい。それでも、テールランプ回りの面の取り方だけで、手元に置いて見ておきたいと思わせた。ヨーロピアンツアラーというカテゴリーは当時珍しく、HONDAのGL系以外は長続きしたモデルはないのではないか。XZも550ccが本来の姿であり、国内の免許制度に合わせた400ccモデルは穏やかな特性となった。

コーナー手前で200kgを超える車体を減速させると、細めの18インチの前後輪はパタリとバンクする。縦置きツインは横方向に倒すのは簡単だ。しかしそこから脱出加速を得ようとアクセルグリップを開くと、水冷エンジンはきちんと7,000回転位は回るものの、車体は置いていかれた。右手と気持ちの3mほど後から車体がやってくる。そのような乗り方をしなければ、つまり淡々と長い距離を走る分には、従順な性格だった。

意外に早く手放したのは、ダウンドラフトのキャブレターが何度ディーラーで修理しても適切な混合気をブレンドできず、時折ストールする癖が治らなかったからだった。信号から発信して右折、という瞬間にエンジンが止まる。当然、交差点の真ん中で転倒することになる、そんな経験が何度かあって、とうとうロングツーリングに出る機会がなかったXZには、今でも美しいと思う気持ちの奥に、ほんの少し悲しい記憶が残っている。

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copyright Nobuo Yasutake