歩く

ただ歩きたいと思う。元来歩くのは好きな方で、旅先だと無意味に歩くことが多い。観光地ではなくて、ホテルの周辺や気になる路地など。ロンドンのパブリックフットパスや、独身の頃は東京を訳もなく歩いた。早朝に歩き出して、新宿から原宿を通って麻布まで、半日ほど歩いた。面白そうな坂道などを見つけては曲がるので一直線に進まない。それでも土地勘はあるほうで、太陽の角度や移動の記憶を頼りにしていてあまり困ったことは無い。(ローマでスペイン広場からホテルまで歩けると思ったら陽が暮れて心細かった。偶然にホテル正面にでたが、この時は朝にバスで出発したおかげで景色を覚えなかったからだろう)
冬空と枯れた木立を見ようと、県立美術館に車を止めて谷田、国吉田を歩いた。静岡市ではないような高台で、テラコッタのような塗り壁に濃いオレンジの木製のドアや、金属を曲げ加工した一点ものの表札、A4、5シリーズが停まっていてSECOMの赤いシールが目立つ一戸建てが並んでいる。急な坂をどんどん進むとやがて日本平に続く丘陵の茶畑にでる。幅30mほどの頑丈なプレファブリックの温室の中には1月の午後の陽を浴びて観葉植物が置物のように並んでいた。この街に僕は30年もいるのかと思うと実感がなさすぎて、不思議だった。
身体を使うと思考も動くし、広い景色を見ると気持ちのわだかまりも取れた。

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copyright Nobuo Yasutake