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帰る場所

梅雨の湿気を根こそぎ蒸発させるような猛暑日が、たまに訪れる。雲が高くて空の水色が深い。郵便局へ行くのを口実に夕方6時過ぎからGSで少し走る。ピンクに染まる港町を歩くのは、浴衣を着た中学女子だ。短髪に原色が映えて、生きがいい金魚の群れのよう。今日は駅前の商店街で七夕祭りがある。
夏、夕陽、乾燥した風、遠くの山霞。こうした光景は目のごちそうみたいに嬉しくなるし、これまでに手にした時間や場所の記憶が断片的に戻ってくる。
この瞬間は忘れないだろうな、と感じる光景にオートバイで走っているとよく出会うものだが、それは399号線で八ヶ岳を超える時の真っ白い壁のように立ち上がった積乱雲だったり、一面のすすきがオレンジに染まって異様なコントラストになった1月の愛鷹山だったり、野宿場所を探して無人駅を探している夕方の小松市だったりするのだけど、何度も目にしたような普通の景色も蓄積されていて、信号待ちのふとした瞬間にそうした時の気持ちが蘇るようだ。
美しい光景との出会いをたくさん持っているのは良いことだろう。自分だけの帰る場所が用意されているようにささやかで贅沢な心境なのだ。

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copyright Nobuo Yasutake