私のことは気にしないでいいから、とクルマが言った

2021年の暮れに友人を見送った。持病との付き合いの中で唐突な別れだった。彼との間にはデザインの他にクルマ好きという共通の話題があり、ガーズレッドの911-991からシルバーのボクスターに乗り換えながら、僕が911-997を早く手に入れるようにとよく笑っていた。

2022年3月に練馬のショップで2004年式のシルバーの997を購入した。調子が悪い個体ではなかったが20年近い前のコンディションからか、6月にブレーキディスク、7月にダンパーリフレッシュ、9月にスピーカーと次々に交換となり、2023年4月にタイヤとブレーキパッドの交換となった。(その後、ハイマウントストップランプとドアハンドルに不具合が出た)

その日、私のことは気にしないでいいから、好きなようにすればいい、と911が言ったようだった。守る対象から、信頼できる普通のクルマになった。それまで僕は随分と気遣いしながらわずかな段差を超え、穏やかに加減速し、ゆっくりとハンドルを切っていた。しかしどうだろう、台東区のショップから引き取り、最初の交差点を左折する瞬間から車体はしっとり路面をつかみ、セルフステアで自分で向きを変えて僕の加速の操作に備えていた。1年経って僕は911を理解できたようだ。

 

copyright Nobuo Yasutake